就職氷河期をサバイブした僕ら世代にとって、遺伝子レベルで刻み込まれたお金の不安は、もはや呼吸と同じくらい自然なものなのかもしれません。3000万円という目標に到達した今でさえ、なぜか心臓のあたりがざわつくのは、僕だけなのでしょうか?
氷河期を生き抜いた僕らのDNA:染み付いた「不安」という感情
僕は40代半ばのWebエンジニアです。雇われの身です。家族は妻と、小学生の子供が3人。賑やかで、毎日が予測不能な、そんな平凡な家庭を築いています。ただ、僕には一つ、人より少しだけ深く刻み込まれた「不安」があります。それは、就職氷河期ど真ん中を経験したこと。
当時、大学の時の就職難を目の当たりにし、常に漠然とした不安が常に胸にありました。求人倍率は絶望的に低く、企業説明会はまるで戦場のようでした。なんとかブラック企業に潜り込めたものの、「デスマーチの常態化」「一生できる仕事ではない」「給料が上がらない」「未来につながるスキルも育たない」という不安が、まるで皮膚のように僕に張り付いて離れませんでした。
あの頃の経験が、今の僕のお金に対する考え方を形成しています。資産3000万円を超えても、この年齢での再就職は厳しいでしょう。そんな不安は拭えません。平均以下の給料で家族5人を養う現状、何が起こるか分からないこのご時世、不安な思考が脳内で繰り返されます。
3000万円達成、だけど心はスキップしない理由
2018年から始めたインデックス投資。メインはeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)で、僕のポートフォリオの90%以上を占めています。補助的にVYMを10%以下で運用し、ささやかな配当金にニヤニヤする日々です。そして先日、ついに資産が3000万円に到達しました。やったぜ!と、世間一般では歓喜の雄叫びをあげるような節目なのでしょう。
しかし、僕の心はスキップしませんでした。むしろ、「ここからどうする?」という新たな不安が、じわじわと押し寄せてきたのです。もちろん、達成感がないわけではありません。地道に積み上げてきたものが形になった喜びはあります。でも、それ以上に「もっともっと増やさなければ」という欲望と、「このままで大丈夫なのか」という慎重さが、僕の中で綱引きをしています。
子供が3人。これから教育費は青天井でかかってくるでしょうし、夫婦の老後資金も考えなければなりません。サイドFIREという目標を掲げていますが、本当にそこに辿り着けるのか、その前に何か大きなアクシデントがあったらどうしよう、とネガティブな思考が頭をよぎる瞬間も少なくありません。まるで、マラソンで中間地点を通過したものの、ゴールまでの道のりの長さに改めて気づき、足が重くなるような感覚です。
クルマを買い替えたいのに、ブレーキがかかる心
最近、クルマの買い替えを検討しています。今のクルマも悪くはないのですが、子供たちが大きくなるにつれて手狭になってきました。新しいクルマのカタログを眺めたりするのはつかの間の楽しい時間です。ピカピカのボディ、最新の安全装備、広々とした室内空間…夢が膨らみます。
でも、同時に僕の心には、強いブレーキがかかります。頭の中では「この出費は本当に必要か?」「もっと投資に回せるんじゃないか?」と、もう一人の僕が自問自答を繰り返しています。ここからまた、数百万単位のお金が財布から出ていくことを考えると、結局まだ決めきれていません。この優柔不断さも、氷河期世代の特性なのかもしれませんね。
小さな抵抗と、それでも前を向くための小さな作戦
お金の不安は、僕ら就職氷河期世代に染み付いた、ある種の「呪い」のようなものなのかもしれません。でも、その呪いにがんじがらめになるのではなく、自分のやり方でささやかな抵抗を続けてるしかありません。
僕の場合、不安に立ち向かうための作戦はシンプルです。まずは、インデックス投資の継続。S&P500が僕の資産形成の主軸であり、市場の成長を信じて淡々と積み立てています。そして、VYMからの配当金。これは、四半期ごとに届く「ささやかなお小遣い」のようで、僕の心を少しだけ豊かにしてくれます。この「不労所得」という心地よい響きに、無理やりでも自分を酔わせるのです。
また、ミニマリズム的な考え方を取り入れ、無駄な出費を抑える努力もしています。本当に必要なものだけを持つ。それ以外のものは潔く手放す。それはもう、攻撃的に捨てていくのです。時々そうすることで心をハイするのです。節約もなるべくゲーム感覚で楽しめるように工夫。
いつの頃からか完璧を目指すのはやめました。不安はゼロにはならないけれど、それでも小さな一歩を踏み出し続けること。それが、僕なりの「前を向くための作戦」です。サイドFIREという夢も、具体的な数字だけでなく、家族との豊かな時間という視点でも捉え直すようになりました。お金はあくまで、そのための手段。そう思うと、少しだけ肩の力が抜けます。そして、たまには自分にご褒美をあげても、バチは当たらないはず。